クルマで読む:ドライブ・マイ・カーとサーブ900

クルマで読む:ドライブ・マイ・カーとサーブ900

物語に登場するクルマには、必ず理由がある。それは性能やスペックだけの話じゃない。
どんな暮らしをして、どんな距離感で世界と向き合い、何を大事にして生きているのか。
クルマは、その人のセンスや価値観、積み重ねてきた選択が、意外と分かりやすく表れてしまう存在。

本連載「クルマで読む。」では、ドラマや映画、小説、映像作品に登場するクルマを手がかりに、「なぜこの人物は、そのクルマだったのか?」をCCGなりに妄想していく企画!

クルマから物語を見てみると、その人の輪郭が、少しだけ立体的に見えてくるかもしれない。

今回の作品は、映画『ドライブ・マイ・カー』

記念すべき連載第1回で取り上げるのは、 2021年カンヌ映画祭で脚本賞を受賞したことを皮切りに、国内外で数多くの映画賞を獲得した映画『ドライブ・マイ・カー』。
村上春樹の短編集『女のいない男たち』に収録された同名短編を原作に、濱口竜介監督が映画化した作品。
この映画の特徴のひとつが、印象的に繰り返されるドライブシーン。その中心にあるのが、西島秀俊演じる主人公・家福悠介が乗り続けている 赤いサーブ900。
静かな海沿いの道路。ゆるやかに続くカーブ。その風景の中を、赤いサーブが滑るように走っていく。
単なる移動手段というより、家福という彼の人物の生活のリズムを映しているようにも見えてくる。
このクルマが、なぜサーブであったのか家福という登場人物の生き方と重ねながら、少し考えていきたい。

家福という人物

西島秀俊が演じる主人公、家福悠介。舞台俳優であり、演出家でもある人物。
この人、なかなかのこだわり屋、そして頑固。

劇中では広島で開催される演劇祭に参加することになるが、主催側から安全のため専属ドライバーを付けることを提案される。ところが家福は、一度きっぱり断る。

「自分の車を自分で運転します」
「運転の時間に戯曲の確認をする大事な時間なんだ」

家福にとって運転は、ただの移動ではなく、自分と向き合う大事な時間。

クルマの中で、戯曲のセリフを録音したカセットテープを流しながら運転する。
同じカセットテープを何度も、何度も繰り返し聞き確認をする。
運転の時間は、彼にとってセリフを体に染み込ませるための大事な習慣。

だからこそ、その時間を人に預けたくないという気持ちが伝わってくる。
専属ドライバーのテストドライブの場面では、こんな言葉も出てくる。

「僕はドライバーを君に頼むことに同意していない」

なかなかの頑固さ。
クルマに対しても同じ。

「このクルマは結構古いし、くせがある」

そう言いながらも長く乗り続けている。 扱いにくさも含めて気に入っている様子が伝わってくる。

SAAB 900というクルマ

家福が乗り続けているクルマは、スウェーデンのメーカー SAAB(サーブ) が作った「サーブ900」。
サーブはもともと航空機メーカーとしてスタートした会社。
そのため自動車にも、どこか航空機の設計思想が色濃く残っている。

例えば運転席はコックピットのような作り。スイッチ配置もドライバー中心。安全性を重視したボディ設計など、ドライバーの感覚を大切にした設計が特徴。

そしてもうひとつ特徴的なのが、自分たちの設計思想をなかなか曲げないメーカーだったこと。一般的な自動車メーカーの流れとは少し違う道を進みながら、独自の考え方でクルマを作り続けてきた。

日本車の堅実さ、ドイツ車の合理性とも、イタリア車の華やかさとも少し違う。 どこか独特で、少しクセのあるクルマとして知られている。

ちなみにサーブというメーカーは現在、自動車の生産を行っていない。それでも今なお乗り続けているオーナーが多いのは、このブランドが持つ独特の魅力なのかもしれない。

映画に登場するのは、赤いサーブ900ターボ。
実は、原作では、家福が乗っているのは黄色のサーブのオープンカー。
映画版では、日本国内に残っている車両の少なさや、カセットデッキが装備されていること、そして風景に映える色などを理由に、赤いサーブ900ターボ(サンルーフ仕様)が選ばれたと言われている。

瀬戸内海の静かな風景の中で、この赤いサーブは印象的に画面に現れる。

家福とサーブの共通点

そんなサーブというメーカーの性格は、家福という人物ともどこか重なって見える。
家福は、自分のリズムやこだわりを大事にしている。

毎日同じテープを聞くこと。 同じクルマに長く乗り続けること。自分の運転で移動すること。

そうした習慣から見えてくるのは、流行よりも、自分のリズムやこだわりを大事にする人という人物像。サーブというクルマも、どこか重なってくる。

流行の中心にいるメーカーではなく、派手さもない。それでも、自分たちの設計思想を曲げずにクルマを作り続けてきた、今はなきメーカー。

そしてもうひとつ、この映画で気になるのがカセットテープ。いまではあまり見かけなくなったメディア。少し不便で、少し古い。
でも、丁寧に使えば長く付き会うことができる。

サーブとカセットテープ。どちらもどこか時代から少し外れた存在。それでも家福は、それらを当たり前のように日常の中で使い続けている。

便利さや新しさよりも、自分のリズムで付き合えるモノを選んでいる。
自分のリズムで生きる人。 そして、自分の考えを曲げないクルマ。その組み合わせとして、この赤いサーブ900は主人公にしっくりくる気がする。

もし、ドライブ・マイ・カーの家福みたいに 「こだわりがあって、自分のリズムで愛着を持てるクルマ」がほしいと思っている人がいるなら、サーブ900を探してみるのも面白いかも……!

劇中車両

SAAB 900 TURBO

メーカー:SAAB(サーブ)
生産国:スウェーデン
駆動方式:FF(前輪駆動)
エンジン:2.0L 直列4気筒ターボ

※映画に登場する車両は赤いサーブ900ターボ(サンルーフ仕様)

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